じっぱひとからげ

十把一絡げになんでもかんでもつづる。

転職しても大丈夫な人

 東京を離れて京都の田舎の会社に転職して2年半が経つ。転職してからの仕事については、この2年半の間に上司との信頼関係も構築でき、仕事の進め方もかなり裁量があって自由が利く。通勤においても、東京のような満員電車とは無縁の京都での田舎暮らし。徒歩で通勤できる会社の近くの家に住み、さらには週2回はテレワークの仕組みを使って自宅で仕事ができるというのもありがたい。金テレワーク、土日をはさんで、月テレワーク。火・水・木は打ち合わせのために会社に行こうというゆったりした生活を送っている。


 転職には経験上かなりのエネルギーと時間を必要とする。それなりに心にも体にも大きな負荷がかかるので覚悟が必要だ。

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「信頼残高ゼロ」に立ち向かえる

 仕事うまく進めるにあたって信頼関係というのは最も重要であるといっても良い。なぜなら、人に対して作業をお願いするとき、その人に期待するクオリティ、その人に期待する納期が明確になるからだ。大きな仕事を計画通り進めていくには、不確定要素を極力減らすべきであるというのが鉄則である。

 ところが、会社が変わると、これまで自分のことをよく知っている人が誰もいなくなるので、信頼残高がゼロになりQCDのコントロールができなくなる。

 もちろん、最近ではこのような問題に配慮して、友人の紹介によって会社に迎えられるケースや、最終的に現場のチームとも交流の機会を経ての採用というケースもある。そのような場合は少し状況が違うのかもしれない。とはいえ、面接の中ではかることができる情報は限られているし、迎え入れられる会社の中で、自分のことを知っている人の範囲というのは、一緒に仕事をすることになる人の全体のうちのわずかな範囲に過ぎない。実際に仕事を始めるということになれば、より多くの人と関わることになるので、その影響力が及ばない範囲も当然出てくるだろう。なにより、仕事における信頼というのは短時間で構築できるような簡単なものではない。

  もともと、前職でもインフラ担当だったので、インフラの設計・構築が完了し、アプリチームに開放したら次のプロジェクトに異動。というように、1年〜2年ごとにプロジェクトを点々とする働き方をしていたので、自分のことを知らない人が大半であるという新しい職場に入っていく緊張感のことはよく知っていたが、会社が変わるというのは、それ以上の緊張感がある。

 同じ会社の中でのプロジェクトの異動ということであれば、ある程度自分のスキルセットをよくわかっている上司が、このプロジェクトにアサインしてもうまくいくだろうという信頼関係をもとにした算段をもって参画させるので、安心感がある。もし、プロジェクトとしてうまくいかない可能性があり、それをなんとかして欲しいという目的で参画するのであれば、そのことも事前に伝えられるはずだ。

 しかし、転職は違う。面接というごく限られた時間だけで評価され、現場に送り込まれる。その采配が是か非かというのは、現場に入ってみないとわからないと考えたほうが良い。

 仕事が一人で完結するということはほとんどない。必ず誰かから依頼を受けたり、誰かに作業をお願いしたりというコミュニケーションが発生する。 このとき、自分に信用がないと受け入れた会社側のメンバも「この人に何をお願いして良いのかわからない」という状態になる。これは逆もまた然りで、相手のことをよくわからないので、自分自身も「何を、どこまで、誰にお願いして良いのかがわからない」という状態になる。


 「信頼残高ゼロ」だと仕事にレバレッジが効かないのである。


 転職してから最初の1年間くらいは本当にもどかしかった。現場でやるべきことはたくさんあるのだが、それを実現しようとすると時間がかかってしまう。ユーザがない、権限がない、情報がない、など仕事を推進する上での道具がなかなか揃わないのである。

 今考えてみれば、私を迎え入れたチームの社員や協力会社のメンバの気持ちもよく分かる。今どきの会社ほど、中途採用によってバンバン人材が流動するような組織でもなかったこともあり、中途採用で入ってきた人間に時間を割くことが、直近の作業スケジュールや費用対効果に合っているのかがわからないので、何を任せるにしてもリスクになってしまうのだ。 仮に自分にスキルがあり、自分の中に成功イメージが見えていたとしても、相手からの信頼がなければ仕事は始まらないのである。

 もし、あなたが転職してまだ日が浅い中、「この転職は本当に正しかったのだろうか」とうまくいかないことがあるとしたら、その多くは信頼残高が足りないことによるストレスだと考えて間違いない。この信頼残高ゼロに立ち向かうには、約束をして、守る。約束をして、守る。という積み重ね以外にやれることはない。とにかく、信頼残高を貯めるところから仕事は始まる。

 これから転職しようと考えている人は、今、自分のことを信頼して一緒に仕事ができるメンバがいなくなったときのことを想像して見て欲しい。これは、実際に会社を離れてみるまで気が付かなかったことだが、最も大きな負担になると言って間違いない。

意図的に空気を読んだり、読まなかったりできる

 「空気を読む」のはいつ何時でも良い行いであるわけではない。

 郷に入っては郷に従えという言葉があるように、転職すればその転職先の文化に従うのが是とされるのは間違いないが、それを頑なに続ければ良いというものではない。その理由は「文化の境界線が見えないから」だ。

 会社やチームには固有の文化があり、その文化には必ず背景がある。その文化に従うことは難しいことではない。言われるがままにそれを実行すれば良いだけだ。しかし、その文化が醸成された背景というのは、ただ文化の中で浮かんでいるだけでは深い理解を得ることはできない。

 守破離ではないが、文化を守る中で感じた違和感は、時として空気を読まずに破っていくということも大切だ。これまで誰も疑問を持つことがなかった文化を逸脱することで、今まで起こり得なかった新しい風を起こしながら補正していく。この活動により、文化の境界線にふれることができる。なぜこの文化が大切にされているのか、良い文化なのか、悪い文化なのもあわせて判断することもできる。

 外からやってきた人間には、これまで踏襲されてきた古い価値観を空気を読まずに破壊できることもあるので、これを有効に使わない手はない。転職先にうまく溶け込めるのは良いことだが、ただ溶け込むだけではせっかくの中途入社の強みを殺すことになってしまう。適度に空気を読み、適度に空気を壊すことができる人は自分自身にストレスを抱えることもないだろうし、組織としても歓迎されるはずだ。

心身が健康である

 「健康」はいかなるスキルセットの最上位にある。このことは誰にも否定はできないだろう。この話は、健康でないことが採用において不利だとかそういう話をしたいのではない。ここで言いたいのは、転職という、自ら環境を変えようというイベントの負荷に対して、耐えうるだけの健康状態でなければ乗り越えられないという意味である。

 大学に進学する、上京する、就職する、といった住む場所や所属する組織が変わる、いわゆる、人生の節目というものは、新しい生活に対しての期待と不安が入り交じり情緒不安定になる。この環境変化をうまく乗り越えるには、心身の健康が必須と言って良い。
 

本音と建前を道具として使える

 採用する側は、ある程度どの領域で力を発揮してもらうかというのは当然考慮してオファーを出している。しかし、採用というのは時間がかかるものだ。応募者がエントリーシートを書き、書類が通って、一次面接、二次面接、最終面接、オファー、退職交渉、有給消化、入社という手続きを経ると、早くても3ヶ月、長ければ半年くらいの時間がかかる。

 半年もの時間があれば、世界や経済の動きはもちろん、ビジネスの変化も著しいので、入社するタイミングでぴったりの仕事がいつでもハマるとは限らない。このようなときに、本音と建前をうまく使えなければ、スムーズに新しい職場に溶けこむのは難しいだろう。

 入社してみたものの、自分のスキルセットにハマらない仕事をあてがわれて苦しい、あるいは、あてがわれるはずだった案件がもう始まっていてしまっていて、他の人がアサインされている。このようなことは当然起こりうる。人を採りたいという組織は、新しくやってくる人のために仕事を用意しておくという準備はするが、オファーを出したが蹴られてしまったというリスクを考えると、予定されたタイミングから寸分違わず入社しない限りは、優先度低、重要度低の仕事を回すところから始まることになる。

 このとき「こんなはずではなかった」、「これは私の仕事ではない」と本音をぶつけるのか、「信頼残高を蓄積するためだ」と割り切って与えられた仕事をこなすのかは転職がうまくいくかどうかの鍵になる。

 「転職ってやりたくもない仕事をやらなきゃいけないんだっけ?」と思った人もいるかもしれない。でも、残念ながら私の答えはYESだ。なぜなら、転職というのはパズルの1ピースを別のパズルにもっていくようなものだからだ。

 前職でハマっていた1ピースを、別のパズルにもっていってぴったりとハマるわけがないのだ。ピースのどこかを削ったり、足したりしなければきれいにはハマらない。だから、頑なに自分という1ピースを削りもせず、足しもせず本音だけを言い続けていてはいつまでたっても新しい職場というパズルにハマることができずに時間がだけが経っていくということになる。

 本当にその職場に溶け込もうという思いがあるのなら、本音と建前は道具としてうまく使いながら、自分のスタイルに近づけていくのが良いだろう。「なんだ、そんな面倒くさいことをしなければならない会社なら行きたくない」というならそれでいい。本音だけで語っていれば成り立つ会社があるのであれば。

まとめ

 振り返ってみると、いずれも、会社を移るまで私の想像力が及ばなかった範囲だった。会社を移ってみるまでは、それなりに腕に自信はあったのだが、組織に貢献できるレベルに立ち上がるのに思いの外、時間がかかった。
 転職というキーワード一つを捉えると、「転職すれば必ず事態が好転する」と思いがちだが、必ずしもそうではない。好転させられるかどうかは、自分自身にかかっている。今後転職を考える人の参考になれば。