じっぱひとからげ

十把一絡げになんでもかんでもつづる。

家事は「最も時間がかかる作業の流れ(クリティカルパス)」を常に意識して時間短縮を図る

 IT界隈や、建設業界隈の「プロジェクト」とよばれる形で仕事に携わる人なら「もっとも時間がかかる作業」と聞いてすぐに、「クリティカルパス」という言葉が思い浮かぶことだろう。この「クリティカルパス」の概念は、「作業を短時間におさめるために、どこを工夫すればよいのか」を可視化するのにとても便利なツールで、ITや建設業界隈では大規模プロジェクトを早く・安く・確実に遂行するための計画策定時に利用される。しかし、この考え方は大規模プロジェクトに限らず、家事にも当てはめることができるので、積極的に採用したほうが良い。
 ただ、「クリティカルパス」という概念に慣れていない人は、具体的に活かせば良いのかというところがあまりピンとこないかもしれないので、あらためて整理したい。

「納豆かけご飯づくり」のクリティカルパス

 こちらの富士フイルムの記事「PERT(パート)図を使って遅れてはいけないポイントを洗い出す*1」は、もともとおそらくビジネス向けに書かれたものなのだが、例がとても易しいのでビジネスだけでなく、家事などのあらゆる作業にあてはめても直感的に理解できると思う。本サイトはとても説明がよくできているので、ここで詳しくは説明しない。

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納豆かけご飯をテーマとしたクリティカルパスの説明
図解で思考整理:PERT(パート)図を使って遅れてはいけないポイントを洗い出す。|Future CLIP/富士フイルム

 ここで登場するのは、納豆かけご飯を作るという作業をプロジェクトと見立てたPERT図である。

米関連の作業が最優先

 このプロジェクトにおける「最も時間がかかる作業の流れ」すなわち「クリティカルパス」は、米関連の作業であることがわかる。この「クリティカルパス」さえ意識できていれば、米を炊いている間に納豆を練れば良いので米を炊き始める前に納豆を練り始めるのは誤りであることがわかる。「クリティカルパス」というのは、critical path=致命的な経路であり、この経路上の作業が滞ると全体のスケジュールに影響を及ぼすという作業がその経路内にあることを言う言葉なのである。
 ここで誤って納豆を先に練り始めてしまうと、米関連の作業が納豆を練り終えたあとになってしまうため、その分全体にかかる作業時間が遅くなることを意味する。

納豆関連の作業は米を炊いている裏でやれば良い

 クリティカルパスによれば、納豆を練ったり、醤油をいれてさらに練る作業はわざわざ急いでやる必要がないことがわかるので、米を炊いている裏でご飯が炊きあがる直前にやれば良いとして、それまでは別の作業に時間を使う、という形で時間を有効に利用することもできる。
 このように、家事に取り掛かる前に「クリティカルパス」がどの流れなのかを意識することで、作業の余裕時間に、別の作業を割くことができ、時間が効率的に使えるのである。

 「いやいや、そんなの当たり前でしょ、自然とそうするでしょう?」と思った人もいるかもしれないが、この考え方は強く意識しないと順番を誤ってしまう。

料理におけるクリティカルパス

出来上がりの時間はクリティカルパスで決まる

 例えば、ミートソースパスタを作るプロジェクトを考える。なんとなく「きっと、パスタをゆでている間にソースを仕上げるのだろう」とイメージできると思う。実際にPERT図を見てみよう。

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ミートソーススパゲティづくりのPERT図

 大きく分けると2つの流れ「ソースを作る作業」と「パスタをゆでる作業」がある。PERT図によれば「ソースを作る作業」がクリティカルパスなので、出来上がりの時間は「ソースを作る作業」にかかる時間に依存することがわかる。
 逆に、パスタのゆであがり時間はクリティカルパス上にはないので、うまくソースのできあがり時間にあわせれば、ゆでたてパスタにあつあつソースをかけることができる。PERT図から見ると余裕時間は3分なので、ソースを作り始めて3分後にパスタの準備に取り掛かれば良いということもわかる。

PERT図の隠れた制約

 ただし、上記、納豆かけご飯のPERT図にも、ミートソースパスタづくりのPERT図にも、実は隠れた大きな制約がある。それは「複数人で作業が同時に実施できること」だ。ミートソースパスタづくりのPERT図の通りに作業を実行しようとすると、最低2名以上の作業者が必要になる。具体的には、「材料をみじん切りする」という作業と「鍋に水をはり塩をいれる」という作業である。普通の人間には、この作業を同時に実行することはできないので、このPERT図に従って作業を実行しようとすると並行して作業をする必要がある。
 例えばこれを一人だけでやろうとすると、PERT図の見直しが必要になる。例えば、このような形になる。

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ミートソーススパゲティづくりのPERT図(一人で作業を実施する場合)

 どうやっても並行で作業できないところは、先行作業が終わってからという順序で実施する必要があるため、「鍋に水をはり塩を入れる」作業を実施してから、「材料をみじん切りする」作業にとりかかることになるので、ここで同時に作業ができない分、1分間のタイムロスが発生し、最終的なできあがり時間も26分から27分になっている。途中、鍋が沸騰したあとの「パスタを入れる」作業は、「玉ねぎ・にんじんを加えて炒める」の3分間の間に一人でも並行作業が実施できるため、タイムロスは発生していない。
 IT界隈では、複数人で並行作業することを「パラレル(parallel)」、一人で順番に作業することを「シーケンシャル(sequential)」と呼び、作業時間短縮のためには「いかに作業をパラレルで実施するか」という工夫をこらしたスケジュールにしようと心がけるのである。シーケンシャルに作業をするスケジュールの場合は、1つの作業にかかる時間が単純な足し算になってしまうので、多くの時間がかかってしまうことになる。できるだけ同時にできる作業は同時にパラレルに実施するのが良いのである。

床に卵を落として割ってしまってもすぐに拾って片付けるな

 料理の最中に、うっかり生卵を床に落としてしまい、悲惨なことになってしまった経験があるかもしれない。そんなときも、悲観することはない。まずは冷静に、今の作業がクリティカルパス上にあるかどうかで、「今片付ける」のか、「後で片付ける」のか判断すれば良い。作業の進捗を阻害しない限りは、落として割ってしまった卵をすぐに拾ったり片付けてはいけない。

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床に落としてしまった卵を片付けるタイミング

 もし、クリティカルパス上の作業中に片付け始めると、片付けている時間がそのまま全体作業の遅れにつながってしまう。ここは早く片付けたい気持ちをぐっと抑えて、パスタのゆであがりと、ソースの煮込みが完了するのを待っている間の空き時間に入れ込むことを考える。こうすることで、ミートソースパスタを作るというプロジェクト全体の時間という観点での影響はゼロになる。
 この「空き時間を有効に使う」と強く意識していない人は、無駄にパスタがお湯の中で踊る様子を眺めたり、無意味にミートソースをかき混ぜたりしてしまうものだ。そんな無駄な時間を過ごす時間があれば、食器の1枚や2枚も洗えるし、ミートソースに合わせるサラダを用意したり、スープを用意したりだってできるのである。
 と、若干このくだりは大げさではあるものの、作業のパラレル化の基本である。できるだけ同時に実施できるものは実施できるように、タイミングを見計らい、あてはめていくのである。

家事全般におけるクリティカルパス

 ここまで読み進めた方ならもうイメージはついたことだろうと思う。あらゆる作業と作業の間には「待ち」がある。この「待ち」をいかにゼロに近づけていくかということが、時間短縮の大きな鍵になる。
 コーヒーを入れるために豆にお湯をかけたあと、蒸らしているこの1分の間に皿を1枚洗おう。切れていた消耗品をAmazonで注文しよう。細切れでも「待ち」があれば、その「待ち」時間にハマるサイズの家事が捗るのである。

ルンバ・食洗機・乾燥機つき洗濯機が時短に有効な理由

 作業のパラレル化という観点で、家事の自動化はとても強力なツールになる。その理由は、「食器洗い機をスタートさせる」、「ルンバをスタートさせる」、「洗濯機をまわす」という短時間の作業だけで、後続を完了させるところまで自動で行われるためである。これは、単純に「自分が作業しなくても良いから楽」という嬉しさだけではないことに注目して欲しい。
 これらの家事の自動化の真髄は、作業を割り当てるには本来まとまった時間が必要だったものが、短時間の細切れ作業として割当てが可能になることにある。食器洗いや掃除機をかけるのであれば15分ほどまとまった時間がほしいな。洗濯は取り込んだあと干す作業もあるから、洗い上がりの○時ごろから15分くらいは取る必要があるな、といったことを考慮する必要がなくなるのである。スイッチひとつで後続作業をお任せできるので、料理の合間の「待ち」の間に洗濯機をまわしておくか。といったこともできるし、コーヒーを入れながら食洗機を回すことだってできるのである。

ダラダラする時間も有意義な時間に変えられる

 作業のパラレル化は、ダラダラ動画を見る時間も有意義な時間に変えられる。なんとなく映画やYoutubeの動画をダラダラみると、なんの生産性もない活動をして無為に時間を過ごしているという罪悪感にかられがちだが、動画を見ながら料理をしたり、トレーニングをしたり、語学講座を聞きながらウォーキングしたり、パラレルで有意義とダラダラをかけ合わせることで罪悪感なく、有意義に過ごすこともできるようになる。

2人以上で作業をすると時間圧縮効果はより強力になる

 上記、PERT図の制約で話したように、複数人で作業を実施する場合は、単純にパラレルで作業ができるようになるため、時間圧縮効果はより大きくなるだけでなく、作業の順序や、パラレル化する対象を柔軟に組み替える事ができるため一人で作業をするため圧倒的に早くなる。
 夫婦でどちらか一方が、シーケンシャルに作業を実施するよりも、うまく作業をパラレルでギュッと短時間に収めることで、ゆっくり二人で過ごす時間がうまれるのである。クリティカルパスについて理解を深め、時間を追求しよう。