じっぱひとからげ

十把一絡げになんでもかんでもつづる。

もっと早く知りたかった青色申告に関する大きな勘違い

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 税務署に開業届を出してからもう2年が経つ。青色申告は2回ほど経験したが、さすがに2回目ともなると慣れたものでそれほど時間はかからなくなった。領収書の管理や帳簿の事務処理の月次運用も確立できているので、それほど手間とも感じなくなってきている。

 とは言っても、はじめての青色申告のときは本を読んでたくさん勉強し、実践しながら身につけたことが多い。今回は、今思えばとても恥ずかしい自分自身が青色申告に対して抱いていた盛大な勘違いについて共有したい。これから個人事業を開業しようという人の参考になれば。

複式簿記は青色申告のためではなく事業のためにつけるもの

 青色申告といえば複式簿記というキーワードがある。青色申告特別控除を受けるための要件*1として、複式簿記で帳簿を付ける必要がある。なにやら難しそうだな、しっかり理解しなければと、とりあえず本屋で日商簿記3級のテキストを買ってきて勉強を始めた。

 ところが、勉強をはじめるとすぐに、複式簿記というものが、青色申告のために面倒くさいがしかたなくやるというものではなく、事業主本人にも税務署にもどちらにもうれしいツールであることに気がつく。複式簿記が持つうれしさはこちらがよくまとまっているので参照してほしい*2

一部引用すると、以下の通り。

  • 単式簿記のデメリット
    • 現金の増減理由はわからない
    • 儲けの金額がわからない
    • 現金の動かない取引は記録ができない
  • 複式簿記のメリット
    • 上記すべてを解決できる

単式簿記と複式簿記の違い(デメリットとメリット) 登川講師(簿記)

 つまり、複式簿記とは「青色申告特別控除を受けるためにしかたなくやる」のではなく、「表現の自由度が高く、取引の経緯がすべて残る便利な複式簿記をつけよう」なのである。そもそも事業をやろうというのに、単式簿記のデメリットである現金の増減理由がわからない、儲けの金額がわからないで事業が成立するわけがない。
 また、単式簿記は「現金の出し入れ」という"点"でしか表現されないが、複式簿記は「発生した取引」をベースとしているためすべてが"線"でつながることになる。それゆえに、不審な取引があれば、それが消し込まれる過程はすべて記録として残っているのでトレースできるのである。もちろん、悪意がなく単純に仕分けが誤っていたとしてもその誤りに気づくこともできる。この点は、税務署からしてもありがたい方式なはずである。「だから」ということではないかもしれないが、税務署にとってもありがたい複式簿記で帳簿を準備してくれるのであれば、65万円の青色申告特別控除をしてあげるよ、ということなのではないかと思っている。

最終的なアウトプットはただの紙切れ数枚

帳簿は税務署に提出しない

 私は、自分自身が青色申告をするまで、上記、複式簿記の帳簿そのものを税務署に提出するものだとばかり思っていた。なぜなら、「開業届」と同時に提出した「所得税の青色申告承認申請書」には、以下の通り、どんな帳簿をつけるつもりなのかという申告をさせられていたからだ。

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所得税の青色申告承認申請書

しかし、実際にはここで記載した帳簿は税務署に提出する必要はない。提出しなければならないのは、後述の「申告書B*3」と「所得税青色申告決算書(一般用)*4」の数枚の紙切れだけである。

 私は、本気で税務署に帳簿を提出する必要があると思っていたが、冷静に考えてみれば税務署はすべての事業のすべての取引をチェックできるほど暇ではないのだ。帳簿はあくまでも、「何かあったときに出せと言われたら過去7年分までは出せるようにしておけ」ということであって、毎年確定申告の際に提出する書類には含まれない。出さなくて良いからといって用意しなくても良いかというと決してそうはならない。しっかり規定の7年間保存し、万が一、税務署から問い合わせがあったときに証憑と仕訳帳をもとに説明ができるようにしておく必要がある。
 帳簿の提出が不要ということを逆に考えると、これら数枚にサマリされた紙切れには、事業のエッセンスが凝縮されており、これを眺めるだけで事業の健康状態がひと目で分かるのである。前述の通り、複式簿記により"点"ではなく"線"で表され、さらに毎年年次で提出するこの数枚をつなぎ合わせればついには"面"となり、税金を逃れるためのつじつまの合わない虚偽の申告はあぶり出されることになるのである。

税務署に提出する数枚の紙

提出する数枚の紙とは以下のものである。

  • 申告書B*5
  • 所得税青色申告決算書(一般用)*6

 数枚の紙といっても、現在はe-taxという形で自宅にいながらこれらのデータを送信することもできる。直接税務署に持ち込まない場合は紙として提出する必要はない。

 ぱっと見た感じ、難しそうだと感じてしまうかもしれないが、これらは前述の複式簿記の仕訳帳さえあれば、基本的には集計するだけでできあがるので案ずることはない。昨今はクレジットカード連携で帳簿を自動でつけてくれるようなSaaSサービスも充実してきている。MFクラウド確定申告、freeeなどいろいろだ。これらのサービスを使えば、仕訳帳は簡単に作ることができるし、日商簿記で問われる「仕分けの方法」についても、それぞれSaaSサービスの公式サイトが丁寧に説明しているので参考にすると良い。初めは日商簿記3級くらい合格するくらいの知識がないとやれ勘定科目だの、仕分けだのは難しくてできないと思い込んでいたが、なんのことはない。ちょっとググれば分かる程度ことなので心配することはない。

 もちろん、日商簿記を否定しているわけではない。私が言いたいのは、個人事業でブログで少し広告収入がもらえます程度の規模の事業において、それほど複雑な取引など発生しないので、自分が行う取引の基本的な数パターンおさえておけば、仕分けなど難しいことはなにもない。もっと言えば、上記SaaSサービスはこれらの作業を極力簡易化できるよう、一度登録した仕分けは次からは自動化、テンプレート化してすぐに仕分けができるような仕組みも整っている。

貸借対照表と損益計算書が読めるようになる

 あえて私がここで、さらに複式簿記のメリットを付け加えるならば、「貸借対照表」と「損益計算書」が本当の意味で読めるようになること、だと思っている。青色申告の提出書類の所得税青色申告決算書(一般用)の中には「貸借対照表」と「損益計算書」も含まれている。いや、むしろ複式簿記はこの2つを作るためにあるといっても良い。事業としての健康状態を測る基本的な数値であるこれらを自分で作ることによって、肌感覚でつかみ、自分自身の言葉で説明できるようになる。

 いやいや、そんなもの前から知っているよ。という人も多いかもしれない。ただ、ここで言いたいのは、自分自身の事業としての「貸借対照表」と「損益計算書」に対して、桁は違えど上場企業の「貸借対照表」と「損益計算書」を見比べて見ることもできるようになるという意味である。「貸借対照表」と「損益計算書」がどのような取引から構成されているのかということを理解した上で、上場企業の「貸借対照表」と「損益計算書」を見るのはきっと楽しくなることだろう。

所得税・住民税に強くなる

課税所得は住民税額に影響する

 給与所得だけで生計を立てるいわゆるサラリーマンは、天引きされる税金のことをなんとも思わないというのはよく言われた話だが、私もその一人だった。サラリーマンにとっての所得税などというものは、毎月天引きされ、年末ごろに総務から「年末調整するから控除になる資料出せ」といわれて、生命保険や地震保険などの証憑を出し、天引きされた所得税の還付を受けるというくらいのことしか考えていない。少し詳しい人なら、その年の医療費の証憑を集めて確定申告で医療費控除を受けたり、寄付金控除を受けたり、住宅ローン控除を受けるくらいなものだろう。
 しかし、自分自身で事業所得を申告するとなると何に課税されるのか、何が控除されるのかを強く意識することになるため、所得税が課されるのかが明らかになる。さらに、ここで明らかになった課税所得は住民税の所得割にも効いてくる。住民税には均等割と所得割という2種類がある*7

  • 均等割
    • 所得の額によらず一律*8
  • 所得割
    • 所得の額によって決定。所得が高ければ住民税も高い。

高所得者は高い所得税を支払った上に、住民税まで多く支払わされることになる。その逆もまた然りである。所得が低ければ、住民税額は下がることになる。

住民税額は子どもの保育料にも影響する

この税金連鎖はまだ続く。

所得税を決める課税所得は、住民税のうちの所得割額を決めるインプットとなり、さらに支払う住民税の所得割額は子どもを保育園に入れるときの保育料を決定するインプットとなる。こちらは、平成31年度の京都市の例である。

例を見ると縦軸に「階層区分」がある。この階層区分は所得割額がいくらなのかで階層分けされている。表によれば、保育料は月額ゼロ円から月額数万円にいたるまで、住民税の所得割額によって保育料が決められるのである。

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京都市の保育料の例
https://www.city.kyoto.lg.jp/hagukumi/cmsfiles/contents/0000178/178518/31hoikuryougoannnai.pdf

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平成31年度 京都市の保育料を決める階層区分

https://www.city.kyoto.lg.jp/hagukumi/cmsfiles/contents/0000178/178518/31hoikuryougoannnai.pdf

つまり、稼いでいる人は、高額な所得税を支払い、高額な住民税を支払い、そして、子どもを保育園に入れるにも高額な保育料を払うことになる。一方、稼いでいない人は、そもそも所得税も住民税も保育料も支払わなくても良いという仕掛けだ。

給与所得と事業所得は合算される

 以下の通り、確定申告書Bには給与収入と事業収入両方を併記できる。併記された給与所得と事業所得は合算され、基礎控除等をふまえて課税所得が決まる。

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確定申告書B

 つまり、給与所得で得られたお金をもとに事業を起こした結果、事業が大成功した場合は給与所得から天引きされた所得税では足りないので、追加で所得税を納める必要がある。逆に、給与所得で得られたお金をもとに事業を起こした結果、事業が盛大にコケて大赤字となった場合は、天引きされた所得税は還付される。給与所得と事業所得は合算されるのである。

 ここでそろそろ気づいた人もいるかも知れないが、「事業所得」は他所得と合算できるというとんでもない緩さを持っているがゆえに脱税の温床になりやすい。freeeに大変興味深い記事がある。

www.freee.co.jp

 税務署から「事業である」と認めてもらわなければ「事業所得」として合算することはできないということは、よく確認しておく必要がある。

事業の口座と家計の口座を物理的に分ける必要なし

 事業で得られた売上が、自分の個人の口座に入ってしまうと、税務署から脱税だととらえられてしまわないか。そう考えていた時期があった(税金が払えるほど儲かってもいないのに、無駄に余計な心配だけはしてしまう性分)。これは半分あっているが半分間違えている。結論から言えば、口座を物理的に分ける必要はない。
 私は事業の口座と家計の口座を分ける必要があると思いこんでいたので、開業届を提出したその足で郵便局にいって、屋号でゆうちょ銀行の口座を作った。しかし、実際にはこの口座は全く使っていない。

blog.jippahitokarage.com

 実際には、事業で得られた売上が個人の口座に入っても構わないし、個人の口座から事業で使うものを買って経費としても良い。もちろん、管理上は事業用の口座と家計の口座をきれいに分けられるのであれば分けたほうが良いに越したことはないし、事業用のクレジットカードと家計用のクレジットカードも分けられるのであれば分けたほうが良いだろう。そのほうが、自分自身の管理上もシンプルになるので、ものの本やサイトによっては分けることを推奨しているケースが多い。ただ、私のような零細個人事業主にとってこのように物理的に口座を分けることによるオーバーヘッドがあまりにも大きすぎるのだ。

口座を分けることのオーバーヘッド

 細かい話ではあるが、私はSBI銀行とミライノカード GOLDのユーザでもあるので、ATMの手数料や振込手数料が優遇されている。

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SBI銀行のランクごとの優遇措置
スマプロランクについて | スマートプログラム | 住信SBIネット銀行

事業用の口座を分けることになると、家計から事業用口座への送金にも手数料がかかるし、振込手数料も余計に払う必要が出てくる。せっかく個人としてSBI銀行のランク4ステータスを持っているにもかかわらず、それが活用できないのである。同じ人なのにも関わらず家計と個人事業と別人格であるがために、自分自身の家計のお金を事業用口座に移動するだけで手数料がかかるなどというなんともあほらしいことが起こってしまう。
 また、事業用クレジットカードを用意する場合も同様である。クレジットカードの手数料を2つ分支払わなければならないのはもちろんのこと、せっかくクレジットカードのヒストリを強化するチャンスだというのに、家計用と事業用とで分割されてしまうとそのパワーも半減してしまう。与信の強化につなげるのであれば、クレジットカードは集約して鍛えたい。

口座を論理分割できる勘定科目「事業主借」と「事業主貸」

 繰り返しになるが、事業用の口座と家計用の口座を物理的に分割する必要はない。その代わり、複式簿記にはこれらの口座を論理的に分割する便利な勘定科目「事業主借」と「事業主貸」がある。

 例えば、事業で必要な本を家計から支払った場合はこの通り。

 新聞図書費 1,500 / 事業主借 1,500

 また、事業で得た売上を個人の口座に入れた場合はこの通り。

 事業主貸 5,000 / 売上高 5,000

 このように、家計から出たものと家計に入ったものが仕訳帳上で表現されていれば、事業用口座と家計用口座が物理的に分割されている必要はない。さらに、それが現金だったのか、クレジットカードだったのかさえ気にする必要はない。とにかく家計から支払われた、家計に入ったことさえ表現されていれば、同じ銀行の口座、同じクレジットカードを使って支払っても構わないのである。

 ただし、仕分けの際、事業用の支払いなのか、家計用の支払いなのかという整理が都度発生するという面倒くささは残る。この、事業用なのか家計用なのかの仕分けの面倒くささと、口座を物理的に分けるオーバーヘッドを比べてどちらを選ぶかを選択すれば良い。

税務署はこわくない

 どうしても税務署や国税庁という響きは、マルサのイメージが強く、悪質な巨額の脱税を図る組織を取り締まるため、強制捜査のための強い権力を持っている印象がある。確かに、巨額の脱税を図るような行為は犯罪なのでそれに対して強い権力を持って取り締まるのは当然のことだが、ただ単純に、個人事業で得られた収益とそれに使った経費を申告する一個人事業主に対しては、とても親切に相談にのってくれる。国税に対して隠し事をしているような人でない限り、税務署はこわくない。
 最寄りの税務署に足を運べば、税務署が主催するセミナーに参加することができる。
www.nta.go.jp

 このフライヤーを見てほしい。「どう見ても若者向けとは思えない」というのが率直な感想だと思う。

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税務署公式の記帳指導のフライヤー
https://www.nta.go.jp/about/organization/osaka/topics/shotokuzei/pdf/shidou.pdf

 なにも青色申告は、やれMFクラウド確定申告だ、freeeだとSaaSサービスで複式簿記つけちゃおうという若者だけのものではない。これまでも数十年にわたって地元の商店街で八百屋をやってきたおっちゃんも、自宅兼美容室をやっているおばちゃんも、農家のおじいさんもおばあさんも、みんな国の仕組みにしたがって青色申告をして、自分自身で税金の額を定めて納めている。このように万人が理解し、実施できるような仕組みでなければならないこともあり、税務署としても記帳を指導する機会が用意されているのだ。これを使わない手はない。
 世の中には「いかに税金を払わないようにするか」という本がたくさんならんでいるが、この記帳指導は税務署のオフィシャルのセミナであり、これよりも正しい情報などないのである。

振り返り

 何事でもそうだが「習うより慣れよ」に尽きる。初めは本で読んで机上で勉強したつもりになっていたが、実際に自分自身で行動することによって得られる知識はその比ではない。今思えば、恥ずかしい勘違いばかりをしてきたが、とても良い経験ではあったので恥を忍んで実践により得られたことを共有する。