じっぱひとからげ

十把一絡げになんでもかんでもつづる。

息子(3ヶ月)が上唇小帯の切除手術後に 人が変わったように泣く子になってしまった

 先日、休みを取って歯医者さんで息子の上唇小帯(じょうしんしょうたい)の切除手術をした。手術を終えてからというもの、息子は人が変わったようによく泣く子になってしまった。

上唇小帯 切除手術とは

 上唇小帯というのは漢字から想像できるかもしれないが、上の唇のウラにある筋のようなもので、その位置には実は個人差がある。息子の上唇小帯は通常よりも歯茎に近い方までのびていてるということだった。上唇小帯の状態によっては、以下のような影響があるとされている。

  1. 歯に汚れがたまり、むし歯になりやすい
  2. 歯並びや咬み合わせに悪い影響を与えることがある
  3. 母乳をうまく飲めないことがある

JSPP 全国小児歯科開業医会

 この問題を解消するために上唇小帯を切除するという方法がある。とはいえ、小さな子どもの口にメスを入れることになるので、この手術に対しては賛否両論ある。やるべきか、やらざるべきか、子どもが小さいうちにやるべきか、ある程度大きくなってからやるべきか、問題になりそうなことがわかってからやるべきか、本当に多くの意見がある。子どもを育てるということに関するこの手の問題は、いろいろな人がいろいろな意見を持っているので本当に判断が難しい。答えなど無い。すべては親の判断で親が決めなければならない。

すべてはおっぱいトラブルから始まった

 ことの発端は妻のおっぱいトラブルだった。おっぱいが詰まって乳腺炎になりかけてはおっぱいマッサージを受け、また詰まってはマッサージを受け、ということを繰り返していく中で、どうやらこの詰まりの原因は、息子の上唇小帯のせいなのではないかという疑いがかかった。歯茎の近くまでのびている上唇小帯が邪魔になり、上手におっぱいを飲むのを妨げているのではないかということである。これは乳児において比較的よくある問題らしい。

 そこで助産師さんから提案されたのが上唇小帯の切除手術だった。 上唇小帯の手術について、私が直接助産師さんから話を聞いたわけではなかったが、妻から聞く話によれば、乳児においては比較的よくある問題で、歯医者さんでやってもらえる簡単な手術で解消するということだった。術後30分もすればまたおっぱいが飲めるようになる、それくらい簡単な手術だという話だった。もちろん、簡単とはいっても手術は手術なので、子どもが暴れてしまわないように親が子どもをおさえつけてておく必要がある、ということだけを聞いていた。簡単な手術なら良いか。そう、安易に考えていた。

手術中 泣き叫ぶ息子の顔を見るのがつらい

 会社を休んで息子を連れて歯医者さんに向かった。3ヶ月になる息子はこれまで泣き止まずに困ったということが一度もない、本当に手のかからない子だ。泣くときといえば、オムツを替えて欲しいとき、 お腹が空いたとき、ゲップがなかなか出ないとき、だいたいこれくらいなもので、解消されるとケロッと泣き止む。一人で寝かせていても、一人でキャッキャと発声練習しているような声を出したりして、一人で遊ぶのが得意で、夜はぐっすり朝まで眠り続ける。おかげで妻も私も夜眠れないというようなことはない。

 歯医者さんで、いざ手術を開始するというときも息子は、台の上に乗せられて、先生やスタッフに囲まれてもにこにこしていた。その様子は楽しんでいるようにさえ見えた。

「じゃ、お父さん、こちらに上がって 、膝でブランケットを押さえてブランケットでお子さんをおさえる感じで、両手は肩をしっかり押さえていてください。」

子どもにマウントポジションをとる形で押さえつけ、手術が始まった。

 手術に関しては事前にいくつか説明があった。中でも興味深かったのは、「手術の最中は子どもへの声かけを控えること」だった。この説明を受けたとき、私はてっきり手術中に泣き叫ぶ子どもを心配するあまり、発狂する親がうるさすぎて手術に集中できず、妨げになるというような理由から声かけを禁止しているのかと勝手に想像していた。しかし、説明によれば、手術によって子どもに植え付けられる可能性のあるトラウマに母親や父親の声を関連付けさせないようにするためだということだった。子どもによってはこれをきっかけとしておっぱいを飲まなくなってしまうなどということも起こりうるのだという。

 息子の歯茎にメスが入った途端、血液が溢れ出し、息子は泣き叫んだ。むろん、叫んだとて手術が止まる理由もなく、 粛々と手術が進行していく。 マウントポジションをとっている私は目の前で息子の口にメスが入れられる様子を直視することになる。喉がちぎれるのではないかと言うほど泣き叫ぶ息子。自ずと私の目にも涙が溢れてくる。「簡単な手術」という言葉の響きよりは遥かに壮絶な手術であった。

 時間にすればあっという間だった。正味15分といったところだろう。切った部分を縫合するのに2針ほど縫った。でも、ここはやはり手のかからない我が息子。縫い終えるとすぐにケロッと泣き止んでしまった。

「がんばったねー。えらいねー。」

息子の手術の様子を直視できずに、遠くから見守っていた妻が息子を抱っこして声をかける。術後、上唇が変形していて少し心配したけれど、時間が経つとすぐに元通りになった。想像していたよりも子どもが泣き叫ぶ激しい手術だった。でも、無事に終わってよかった。これでおっぱいも上手に飲めるようになるはず。

理由もなく泣き止まなくなった息子

 ところが、手術をした晩から明らかに息子の様子がおかしい。これまで一度たりとも理由もなく泣き続けるようなことはなかったのに、 どうやっても泣き止まない。しきりに口の中を触ろうとする様子を見ると、手術の影響によるものであろうことが想像された。麻酔が切れたから痛くなってきたのか、 縫い合わせた糸が気になるのか。その理由はわからないけれど、とにかく泣きやまない。初めてのことだった。
 手術をした日からというもの、おっぱいが上手に飲めるようになったのは良かったが、これをきっかけとしてよく泣く子になってしまった。妻や私が息子の視界に入っている間はにこにこと機嫌が良いが、視界から消えるととたんに泣き出してしまう。生後3ヶ月の息子にとって上唇小帯切除の手術はとても刺激が強く、彼の記憶の中に強い不安を植え付けてしまったのかもしれない。そう思うと彼が泣き出すたびにいたたまれない気持ちになる。

 いずれにしても上唇小帯切除の手術はいつかやることになっていただろうとは思うけれど、手術の前後で、物理的な変化以外に、たった生後3ヶ月の子どもでさえも精神的な変化をもたらすということは私の想定の範囲外だった。この件ばかりは少し想像力を欠いていたと少し反省した出来事だった。