じっぱひとからげ

十把一絡げになんでもかんでもつづる。

日本最古のシングルモルトウイスキー蒸留所 山崎蒸溜所を見学してきた

 夏休みなのになんの予定もないや。そういえば、近所の山崎蒸溜所にいつか行きたいと思ってたんだよな、と見学コースのWeb予約を見てみると、奇跡的に次の日の1席だけ80分の有料見学コースが空いていて即予約を入れた。
 通常は向こう3ヶ月予約がびっしりという状態だったようで、本当に偶然、前日に予約が取れてしまった。おそらく誰かが予約をキャンセルしたとかそういうタイミングだったのかもしれない。

「やってみなはれ。やってみんことには わかりまへんやろ」

 これは創業者鳥井信治郎の言葉だ。

「やってみなはれ。やってみんことには わかりまへんやろ」
この地に賭ける創業者の覚悟からすべては始まった。

 「日本人の繊細な味覚にあった日本のウイスキーを作りたい」創業者鳥井信治郎はこの地に日本初となるモルトウイスキー蒸留所「山崎蒸溜所」を建設しウイスキー作りに闘志を燃やした。
(山崎蒸溜所 ウイスキー館 展示より)

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創業者 鳥井信治郎

 当時は、本格的なウイスキーづくりはスコットランドやアイルランド以外の地では不可能だと考えられていたため、世間からの反対の声があった。そんな声に鳥井信治郎は「仕事が大きくなるか小さいままで終わるかやってみんことにはわかりまへんやろ」と答えたという。 

なぜ蒸溜所として山崎の地を選んだのか

 実は、近所に住んでいながらまったく知らなかったことなのだが、山崎というこの地は濃霧が発生しやすく、湿度が保たれやすいことからウイスキーにとって理想の土地なのだという。
 鳥井信治郎は良い熟成は良い自然環境なしにはあり得ないという確信のもとに全国各地を歩き回り、この山崎という土地にたどり着いたとされている。天王山の麓で、木津川・桂川・宇治川という温度の異なる複数の川の水が合流するこの地は濃い霧が発生しやすいのだという。また、山崎にある水無瀬神宮の湧水は「離宮の水」と呼ばれ、今では日本の名水百選の一つに数えられている。

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桂川・宇治川・木津川が流れ込む山崎蒸溜所(Google マップ

 また日本史に詳しい人なら、豊臣秀吉が明智光秀を破った「山崎の合戦」のあの「山崎」と言ったほうが伝わるかもしれない。じつはこの山崎という場所は、JR山崎駅と阪急大山崎駅が近く、京都からも大阪からも非常にアクセスが良い。

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山崎蒸溜所へのアクセス JR山崎駅と阪急大山崎駅から徒歩10分
アクセス|サントリー山崎蒸溜所

これだけアクセスが良ければ、Japanese Whiskyファンの外国人観光客がもっといてもよさそうなものだが、全体の1割にも満たない様子だった。この山崎蒸溜所とからめてもう一つ目玉となる観光スポットがあれば良いのだが、そこが外国人観光客が寄っていくスポットになりにくいのかもしれない。

山崎蒸溜所見学コース

 大きく分けると有料コースと無料コースの2種類がある。有料のコースは製造工程の見学(80分コースまたは100分コース)があり、無料コースは製造工程の見学なしになっている。見学はいずれも予約が必要なので、予約がなければ入ることもできない。有料コースは人気なので、向こう3ヶ月は予約が埋まっているような状態である。

 楽しみ方は公式に詳しく書いてあるのでこちらを参照
www.suntory.co.jp

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山崎蒸溜所 ウイスキー館入り口
 有料コースにはブレンドする前の山崎を構成する原酒をテイスティングしたり、美味しいハイボールの作り方などを教えてもらえる場などもあるので、蒸留所までせっかく足を運ぶなら有料コースを選んだほうが良い。ただ、製造工程の見学がない無料コースでも、ウイスキー館の展示エリアはすべて見学できるのでこれだけでも十分見ごたえがあるので、もし有料コースの予約が取れなければ無料コースの予約を取るのも悪くない。なぜなら、こんなに格安でいろいろなウイスキーを試飲できるからだ。

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ウイスキー館の試飲メニュー 山崎25年や響30年もメニューにある

 テイスティンググラスに15mlの少量ではあるが、100円からいろいろなウイスキーを試飲できるのはここならでは。もちろんシングルモルトウイスキー山崎もある。700ml買えば数十万円は優に超えるであろう山崎25年もテイスティングできる。

山崎蒸溜所 製造工程見学

 モルトウイスキーの原料である麦芽を仕込み、発酵させたのちに樽に詰める。樽詰めされたモルト原酒を貯蔵庫で熟成させる。 

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貯蔵庫はウイスキーの香りでいっぱい 立っているだけで酔っ払いそう

 製造工程の見学で注意が必要なのは、貯蔵庫のウイスキーの強い香りだ。割とウイスキーは好きなほうだと自負しているが、貯蔵庫に一度足を踏み入れた瞬間にウイスキーの香りが鼻からだけでなく、体の穴という穴から吸い込むような感覚に襲われる。どんなにウイスキーが人な人でもちょっと、うっ、と来るほどの刺激がある。お酒が苦手だったり、ウイスキーの香りが苦手な人は工程見学はやめたほうが良いと感じた。

 見学の途中で、熟成が進めば進むほどウイスキーが色づき、中の水分やアルコール分が出ていってしまう様子を見せてもらえる。前面がアクリル板になっているので、中の様子が見える仕組みだ。

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前面だけディスプレイ用にアクリル板になっている樽

 このように、熟成が進むにつれて少しずつ量が減っていく様子を昔のウイスキー職人たちは「これはきっと天使がこっそり飲んでいるに違いない。でも、天使に分け前を与えているからこそ、天使の助けもあって美味なるウイスキーが出来上がるのだ」と考えて、減ったウイスキーのことを「天使の分け前(Angels' share)」と呼んできたそうだ*1。当然のことながら、熟成時間が長ければ長いほど天使の分け前は多くなる。これが、熟成時間が長いお酒が高価であることの一因であるとも言われている。

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熟成中変わっていく色と香りと量がウイスキーファンを魅了する

山崎 原酒テイスティングと美味しいハイボールの作り方

 見学を終えたあとは、ブレンドして「山崎」が出来上がる前の原酒のテイスティングができる。

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テイスティング用の原酒とブレンドされた製品としての山崎が並ぶ
原酒を経験したのははじめてだが、やはりトゲトゲした口内に突き刺さるようなしびれるような尖った味だった。
 一方、これを経験してからのブレンドされた製品である山崎を口にすると、ほう、これがブレンダーの仕事かと改めて感心する。口あたりがよく、トゲトゲしていたのはどこへやら、むしろやわらかい、まろやかな味わいで別のものに変わっていた。ブレンダーは幾多の原酒をテイスティングして、どの原酒を組み合わせて「山崎」を作るか決めるという重要な仕事なのである。
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原酒に関する説明を受けながらのテイスティング
 こんなに刺激の強い酒をテイスティングしまくる人間の健康状態はどうなってしまうのかと心配したが、ブレンダーはテイスティングしたあとは飲み込まずに吐き出すのだそうだ。
 ITの人間からすると、どうしてもこういう現場を目にすると、「数値化できないのか?」「人の舌に頼らずに定量的に評価することでより美味しいウイスキーは作れないのか?」「工程を短くできないか」などと軽々しく考えてしまうが、おそらくそんなことは当然サントリーの研究者もやろうとしているのだと思う。それでもまだまだわからないことが多いというところも、このウイスキーの魅力を構成する要素なのかもしれない。

 最後は山崎蒸溜所公式の美味しいハイボールの作り方を教えてもらえる。

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美味しいハイボールの作り方を教えてもらえる

1.グラスに氷をいっぱいに入れて冷やします。
2.ウイスキーを適量注ぎ、よくかき混ぜます。
3.氷を足します。
4.きりりと冷えたソーダを加えます(1:ソーダ3〜4)
5.炭酸ガスが逃げてしまわないように、マドラーでタテに1回まぜます。

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ハイボールのための氷がたっぷり入ったアイスペール

 この日の京都の最高気温は36℃を越えていて、見学の途中、貯蔵庫は当然冷房など効いていないし、施設を移動する合間に外を歩く時間もそれなりにあったこともあり、きんきんに冷えた山崎ハイボールが染み渡る。
 

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美味しいハイボイールを作るにはたっぷりの氷

 ウイスキーによく合うおつまみとして、ナッツやクラッカー、チョコレートなども出て製造工程まで見学して1,000円。80分は少し長いかなと思っていたが、あっという間だった。

 有料コースの見学が終わったあとは、無料コースも入場できるウイスキー館で前述の試飲を引き続き楽しむことができる。 

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無料コースでも楽しめるテイスティングカウンター

 昨今の国産ウイスキーの品薄状態は続いており、山崎蒸溜所をもってしてもシングルモルトウイスキー山崎は手に入らない様子。

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山崎蒸溜所でも手に入らないシングルモルトウイスキー山崎

 ぜひ、山崎蒸溜所に足を運んでテイスティングカウンターを楽しんで見てほしい。

その他の工場見学シリーズはこちら

blog.jippahitokarage.com

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