じっぱひとからげ

十把一絡げになんでもかんでもつづる。

独立行政法人 造幣局本局(大阪)の工場見学に行ってきた

休みをとって独立行政法人 造幣局本局(大阪)の見学に行ってきた。実は、造幣局の見学に行くのはこれが二度目だ。初めて造幣局を見学したのは2015年の9月、池袋にあった造幣局東京支局の工場見学だった。

二度目の造幣局の見学のため、当時のことを思い出しながら京都から大阪に向かう電車の中で、もう一度、造幣局のことを調べているとある事実を知った。それは、私が最初に見学した造幣局東京支局と呼ばれていたそれは、私が池袋から京都に引っ越してきた2016年10月に時を同じくして池袋からさいたま市に引っ越ししていたということである*1。故に今は、池袋にあった「東京支局」は姿を消し、すでに「さいたま支局」としてさいたま市で業務を再開しているらしい。池袋に住んでいるうちに東京支局の工場見学に行けてよかった。

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造幣局 本局 博物館展示の年表より)

さいたま支局はまだ行ったことがないのでわからないが、東京支局の工場見学で満足してしまった人は、ぜひ大阪の本局にも足を運んで欲しい。東京支局と本局では中心となる業務の性質が違うので、見ることができる工程も違ってとても興味深い。

独立行政法人 造幣局とは

日本で唯一、日本円の貨幣を製造している独立行政法人である。歴史や沿革は公式*2にお任せすることにして、独立行政法人造幣局の主な事業は大きく分けると以下の4つである。

  • 貨幣の製造
  • 勲章・褒章の製造
  • 金属工芸品の製造
  • 貴金属の品位証明

日本円で扱われる貨幣1円、5円、10円、50円、100円、500円の6種類の他、記念硬貨のような金属工芸品として額面1000円の硬貨、つまり、実は1000円玉という普段はみかけないような硬貨も造幣局で製造している。
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(2017年6月造幣局 本局 できたての平成29年と刻印された100円硬貨)

他にも、内閣府賞勲局からの依頼を受けて、国家や公共に対して功労のある人をに与える勲章・褒章も製造したり*3金・銀・プラチナなどの品位証明したりするのも造幣局の事業の一つである。勲章・褒章の一覧は内閣府の資料(PDF)にまとめてある*4。さらに、金属工芸品としてオリンピックのメダルを製造するのも独立行政法人 造幣局の仕事である。オリンピックの金メダルは実は銀メダルでできていて、銀メダルの上にたった6g以上の金でメッキしているだけであるというのは、造幣局を訪れたもの必ず与えられる豆知識である。東京支局でも、本局でも同じ話を聞いた。ちなみに、勲章や褒章、各種金属工芸品のデザインは外注せず、造幣局内のデザイナが行っているらしい。

以下、造幣局東京支局(当時)と本局(大阪)を比べながら、工場見学の様子を書こうと思う。


日本に3つある造幣局とその性質

造幣局はさいたま支局(旧 東京支局)、本局、広島支局の3つでそれぞれ持っている工程が違う。

私が2015年に最初に訪れた池袋の東京支局の貨幣製造事業ではプルーフ貨幣と呼ばれるコレクター向けの観賞用貨幣の製造が主な業務となっている。もちろん、通常貨幣も製造しているようではあるが、本局に比べるとその量は少ないと職員は説明してくれたのを覚えている。東京支局の通常貨幣の製造業務は、どちらかと言うと、他局が被災したときのバックアップとして機能させるという側面が強いようである。
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(2015年 造幣局 東京支局博物館で展示されていた 通常プルーフ貨幣セット)

プルーフ貨幣はその表面を鏡のようにピカピカに仕上げてあり、我々が普段見ている硬貨と同じものとは思えないような美しい仕上げになっている。キレイすぎて逆におもちゃのように見えなくもない。もちろん、通常貨幣と同じように、お店で使うこともできるが、プルーフ貨幣は通常貨幣よりも美しさを求める工程が含まれていることもあり、額面よりも高い値段で売買される。

例えば、平成28年銘通常プルーフ貨幣セット(現行6種の硬貨 額面総額 666円)は、送料込みで7,714円でオンラインで販売されている。ケースや年銘板などの付加価値をつけているということはあるものの、このプルーフ貨幣を通常貨幣と同じようにコンビニ支払いに利用する人はいないだろう。

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造幣局オンラインショップ / 商品詳細ページ

一方、本局は東京支局とは異なり、通常貨幣の製造量が多いので通常貨幣を製造現場を見学することができる。しかし、東京支局、本局いずれも貨幣の材料である銅やニッケルを溶解し、圧延して板にする工程はない。現在日本にある3つの造幣局のうち、原材料から貨幣まで一貫してすべての工程を持っているのは広島局だけである。東京支局、本局を制覇したので、ラスボス広島局、そして、新しく埼玉に移転したさいたま支局にも行ってみたい。

本局の工場見学

驚くほど人がいない。ほぼすべてがオートメーション化されていた。最初から最後まで工程の中でほとんど人を見なかった。
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(出来上がった硬貨を計数する様子)

人を見たのは外観検査のところだけだった。東京支局の見学のときは、プルーフ貨幣を製造しているところを見たので、顕微鏡やルーペなどで鏡面の様子を人が見てピカピカに磨き上げていたが、本局ではそのような工程はなく、外観検査も機械で行われている様子で、ときどき人がサンプリングして見る程度だった。
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(外観検査の様子)

たっぷり見れる造幣局博物館

江戸時代の貨幣である大判や小判の製造の様子などの歴史はもちろん、最先端の硬貨まで資料がとても充実している。これは後で知ったことだが、博物館の見学は予約不要な上に、土日祝日も見ることができるようなので、平日に来れない人は博物館だけ見に来ても満足できると思う。もちろん無料だ。

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我々が案内されていた工場見学は最初に30分程度の動画による説明と30分の工場見学、そして30分博物館を見る90分のコースだったが、最後の博物館は時間制限があるわけではなく、そもそも一般公開されているところなのでいつまでいてもかまわないのである。

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10時開始で見学を始めたのにすべての工程を終えて博物館を出たのは13時だった。昼を食べることも忘れてすっかり夢中になってしまった。

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(蝶をモチーフとした3D硬貨)

もうこれなんかなんだよ、3D硬貨って。ワクワクが止まらない。

電子マネーの波におされる貨幣製造事業

工場内に面白い資料があった。これは貨幣製造枚数の推移である。

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(工場内に掲示されていた「社会情勢と貨幣製造枚数の推移」)

データそのものはここ*5に公開されている。貨幣の製造枚数は社会情勢と連動するのが見て取れる。

500円玉が登場した頃がわかったり、消費税が導入されると1円玉の製造を増やす必要が出てくるなど、非常にわかりやすい。最近で言えば、貨幣の製造そのものが縮小傾向にあるのがわかる。それはそうだ。電車に乗るときは電子マネーだし、買い物は基本的にクレジットカードで済ませてしまう。現金にふれることが本当に少なくなったと思う。造幣局の貨幣製造事業はこのまま消えていってしまうのか。

と思いきや、驚くなかれ。造幣局。なんと円がだめならと、外貨の製造を請け負っているという。

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日本の造幣局の技術力が世界的にも評価されていることの表れと言って良いだろう。

貨幣は偽造ができないほど高度に作られているという性質から、お金という価値の尺度として機能している。一方、その希少さがコレクターの心にも響くのでおもしろい。

天皇陛下お気持ちを受けての生前退位の話も出てきているので、きっと「平成」が刻まれた硬貨が製造されるのも残りわずかとなることだろう。グラフを見てもわかるように、1円硬貨や5円硬貨は電子マネーに押されてその製造量が極端に減ってきている。この希少な硬貨もコレクター魂に火をつけて、高値がつくのだろうか。