じっぱひとからげ

十把一絡げになんでもかんでもつづる。

NHK教育の「昔話法廷」という15分番組がシュールで面白いし教材としても良く出来ている。

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NHK教育で昔話法廷という小学校5・6年生向けの「裁判とはどのようなものなのか」「裁判員裁判における裁判員の振る舞い」についてを考える教材である。これが実に良く出来ている。NHK for Schoolで配信されているので興味のある方はぜひこちらから。

www.nhk.or.jp

この番組は、「なじみ深い昔話の主人公が訴えられたらどうなるのか」という設定で作られている*1。実は、この番組は2015年の夏休みに最初のシリーズが放送され、プリ・ジュネス2016というドイツのミュンヘンで2年に1度開かれる国際子ども番組映像祭で11〜15歳フィクション部門 国際子ども審査賞を受賞している。今回の新シリーズが出るまで昔話法廷の存在に気づいていなかったが、2015年の段階で第1話〜第3話までが公開されすでに話題になっているのでいまさらという感じもしなくはない。

昔話法廷は、検察官が起訴状を読み上げるところからはじまる。

■2015年シリーズ 

・第1話「三匹のこぶた」裁判
被告人のトン三郎は二人の兄が狼に食べられそうになったので、次に自分が襲われる前に狼を殺そうと決意しました。7月7日午後3時ごろ、自ら狼を自宅におびき寄せたトン三郎はあらかじめ戸や窓を塞ぎ、狼が煙突から入るよう仕向けました。そして、お湯を沸かしておいた大鍋の中に狼を転落させました。トン三郎はすかさず鍋に蓋をしおもしの石をのせ、狼を死亡させたのであります。トン三郎が犯した罪は刑法第199条の殺人罪にあたります。

・第2話「カチカチ山」裁判
被告人のうさぎは、親代わりのおばあさんを殺したたぬきへの敵討ちを決意、逃亡中のたぬきに言葉巧みに近づきました。まずうさぎはたぬきが背負った薪に火をつけ、背中に大やけどを負わせました、そして、その傷口に唐辛子味噌を塗りつけ、さらなる苦痛を与えました。さらに、うさぎはたぬきを泥で作った船にのせ、池に沈めようとしました。たぬきは通りかかった村人に救われたものの一時意識不明の重体に陥りました。うさぎが犯した罪は刑法第199条、第203条の殺人未遂罪にあたります。

・第3話「 白雪姫」裁判
白雪姫の美しさに嫉妬をつのらせた被告人の王妃は、白雪姫のを殺すことを決意しました。王妃はりんご売りのおばあさんに変装し、森で暮らす白雪姫を訪ねました。白雪姫に毒をぬったりんごを食べさせ殺そうとしました。白雪姫は偶然現場を通りかかった王子に救われたものの一時意識不明の重体に陥りました。王妃が犯した罪は刑法第199条、第203条の殺人未遂罪にあたります。

■2016年シリーズ

・第4話「アリとキリギリス」裁判
被告人のアリはキリギリスと兄弟同然の深い関係にあったにも関わらずキリギリスを見殺しにしました。冬になり食べるものがなくなったキリギリスは食料を分けて欲しいと頼みにきました。しかし、アリは無情にもその申し出を断り、追い返しました。次の日、キリギリスで自宅で飢え死にしているところを発見されました。アリの犯した罪は刑法219条の保護責任者遺棄致死罪にあたります。

・第5話「舌切りすずめ」裁判
被告人のすずめはおばあさんとおじいさんの3人で暮らしていました。ある日、すずめはおばあさんがお米で作った洗濯のりを全部食べてしまいました。おばあさんの怒りをかったすずめは、はさみで舌を切られ家から追い出されてしまいます。強い恨みをいだいたすずめは、おばあさんの殺害を決意しました。一月後、すずめは自分を探し訪ねてきたおじいさんにおおきいつづらと小さいつづらを差し出し、小さい方を選ばせ持って帰らせました。すずめが小さいつづらに入れていたのは小判でした。強欲なおばあさんをおびきだすためです。すずめの思惑通り、おばあさんは大きい方のつづらももらいにのこのことやってきました。すずめはおばあさんにつづらをわたし、中に入れておいた大量の毒蛇や毒虫に襲わせ殺そうとしたのです。すずめが犯した罪は刑法第199条、第203条の殺人未遂罪にあたります。

・第6話「浦島太郎」裁判
被告人の乙姫は竜宮城の主。亀が地上から連れてきた浦島太郎と出会いました。乙姫は浦島と恋仲になり、夫婦同然の暮らしを送るようになりました。しかし3年後、両親のことが心配になった浦島は、地上に帰ると別れを切り出しました。そのことに強い恨みを抱いた乙姫は浦島を殺すことを決意。殺傷能力の強い煙が詰まった玉手箱を渡したのです。地上に戻った浦島は煙を浴び、急激に老化、甚大な苦痛を受けました。乙姫が犯した罪は刑法第199条、第203条の殺人未遂罪にあたります。

 

検察官による証人尋問、弁護人による証人尋問、弁護人と検察官による被告人への質問を経て最終弁論という裁判の流れにそって進められる。もちろん、裁判員制度が適用される裁判なので重大な犯罪についての裁判であり正解はないので、番組の視聴者は裁判員として参加している登場人物の視点で犯した罪について考えることになる。そして、番組の結びはきまって、AなのかBなのか…どっちなんだろう?と裁判員役が考えこんで終わる。つまり、番組を見たあとで自分自身はこう思ったが、他の人はどう思ったのかというディスカッションができる、ディスカッションがしたくなるつくりになっているのだ。

番組の構成として小学校5・6年生向けだからと子どもっぽい作りにしていない。活躍している役者さんを起用していて*2、感情を揺さぶる裁判の一連の流れはとても15分番組とは思えない。登場人物の一部がアリ、キリギリス、うさぎ、すずめなどのかぶりものである以外はドラマとして完成されている。最初はかぶりものが法廷に現れるシーンには、プッと吹き出してしまうが、どんどん裁判の内容に惹きつけられていく。小学校5・6年生というお年ごろは子ども向けですよと子どもを意識した番組よりも、少し大人の世界に足を踏み入れたくなるころであろうという製作者の意識もあるのだと想像している。