じっぱひとからげ

十把一絡げになんでもかんでもつづる。

「保育園に入りたい!2017年版」を読んでわかったこと

昨今の保育園に入れない問題をよく耳にする中、保育園の実態についてあまり良く知らないので「保育園に入りたい!2017年版」を買って読んでみた。そもそも保育園とはどのようなサービスが受けられるところなのか、どんな人が保育園を利用するのか。きっと、タイトルからして保育園に入りたい人々を想定した読み物なのだから、体系的に紹介されているに違いない。そう思って勉強することにした。(※実際には、全然 期待した内容ではなかった)
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誰が保育園を利用するのか

共働き世帯にとって、ワーキングタイムに子どもを預かり、家庭に代わって子どもを保育してくれる保育園はなくてはならない存在です。子どもが安心して過ごせる施設に我が子を通わせながら、家族のため、そして自分のために働きたい。仕事も子育ても楽しみたい。そんな家庭が増える一方で、誰もが希望通りの保育園に入れるわけではないのが現状です。
(出典:保育園に入りたい!2017年版)

なるほど、対象は「共働き世代」で「家族のため、そして自分のために働き、仕事も子育ても楽しみたい」人が保育園を利用するというように読める。この本では、出産後、職場に復帰するにあたって、親と子どもにとって最適な保育園を探し、入園枠を確保する「保活」について書かれているらしい。

そもそも保育園とはいったい何なのか

せっかく買った「保育園に入りたい!2017年版」は非常に読みにくい。内閣府文部科学省厚生労働省から出ている「子ども・子育て支援新制度なるほどBOOK 平成28年4月改訂版*1」をベースに整理する。こちらのほうがずっと見やすい。この資料には、国や自治体によって運営される認可保育施設について記載されている。

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出典:子ども・子育て支援新制度 なるほどBOOK(平成28年4月改訂版) - 子ども・子育て支援新制度:政策統括官(共生社会政策担当) - 内閣府

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出典:子ども・子育て支援新制度 なるほどBOOK(平成28年4月改訂版) - 子ども・子育て支援新制度:政策統括官(共生社会政策担当) - 内閣府

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出典:子ども・子育て支援新制度 なるほどBOOK(平成28年4月改訂版) - 子ども・子育て支援新制度:政策統括官(共生社会政策担当) - 内閣府

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出典:子ども・子育て支援新制度 なるほどBOOK(平成28年4月改訂版) - 子ども・子育て支援新制度:政策統括官(共生社会政策担当) - 内閣府

「保育園」という言葉は一般的に利用されるが、児童福祉法上は「保育所」が正しい名称らしい。2015年度から「子ども・子育て支援新制度」が始まり、0歳〜2歳向けの「地域型保育」と呼ばれる事業に対しても国からの給付が行われるようになったことにより、保活における選択肢が広がったとされる。では「地域型保育」とはいったいなんなのか。以下の4つのタイプが定義されている。

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出典:子ども・子育て支援新制度 なるほどBOOK(平成28年4月改訂版) - 子ども・子育て支援新制度:政策統括官(共生社会政策担当) - 内閣府

この定義からわかるように、地域型保育というのは、保育所よりも少人数の子どもを家庭や会社で保育するという簡易的な事業を指している。このような簡易的な事業に給付金をあてることで、待機児童を減らす取り組みが「子ども・子育て支援新制度」である。今思えば、前にいた会社でビル内に託児所のようなものを開設していたのは、この「子ども・子育て支援新制度」の「事業所内保育」事業を給付金を受けて運営していたのかもしれない。

施設の利用手続き

2号・3号認定の場合の4、ここがいわゆる保育の必要性の程度をふまえた市町村の利用調整であり、「保育園落ちた日本死ね!!!」の舞台なのだろう。この利用調整は、市町村がある基準をもって決定しているとのこと。

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出典:子ども・子育て支援新制度 なるほどBOOK(平成28年4月改訂版) - 子ども・子育て支援新制度:政策統括官(共生社会政策担当) - 内閣府

市町村による利用調整

まずは、保育の必要性を基準に沿ってスコア化する。「※実際の運用にあたっては、更に細分化、詳細な設定を行うなど、現行の運用状況等を踏まえつつ、市町村ごとに運用」とあるので、全国一律でルールが決まっているわけではなく、現状に合わせて自治体に基準は委ねられている。これが「保活のスタートは自治体の窓口からスタート*2」といわれる所以である。以下のように、保育の必要性を客観的なスコア、内閣府の資料によると「指数」と呼ばれる数値に変換する。

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出典:平成26年8月28日 子ども・子育て支援新制度 認定こども園向け全国説明会(第1回)資料4 子ども・子育て支援新制度における利用調整について http://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/event/setsumeikai/h2608/pdf/s4.pdf

希望している施設の中で、指数が降順ソートされ、保育の必要性の高い人から順に定員が空いている数だけ決定していくという方式の例である。以下の例を見てみよう。「指数が高く、第一希望の空きがある」が最初に保育所が割り当てられると判断されるのは想像に難くない。その次は「指数が高く、第二希望の空きがある」である。これは自治体にもよるようだが、とにかく保育の必要性、すなわち指数が重要視され、施設の希望は二の次であるという形で利用調整が行われる。本当に保育が必要な人に、保育所の割当をするというまっとうな思想によって運営されていると言って良い。

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出典:平成26年8月28日 子ども・子育て支援新制度 認定こども園向け全国説明会(第1回)資料4 子ども・子育て支援新制度における利用調整について http://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/event/setsumeikai/h2608/pdf/s4.pdf

ただ、ここで問題なのは、この客観的なスコアは振り分けに十分な設計になっていないため、希望者間で差がつかずに横並びになってしまうことである。全員ほぼ同じ点数という中で、定員は限られている。では、この状況下で誰が選ばれるのかということに対して保育を必要とする人々の間でさまざまな憶測が飛び交う。「自治体に対して、保育が受けられないことに対しての困り事を手紙にしたほうが良いのではないか」、「第一希望だけ書いて、第二希望、第三希望は書かないほうが熱意が伝わるのではないか」、「フルタイマーの中で差をつけるために、残業が多いことの事情も説明したほうが良いのではないか」、「保育が受けられていないことをアピールするために、窓口には子どもを連れて一緒に行ったほうが良いのではないか」など、お母さんたちは必死である。常軌を逸している。

「保育園に入りたい!2017年版」によれば、

「客観的な基準で点数化して判定するので、手紙をつけても関係ありません」と断言します。8割方その通りでしょう。ただし、自分たちが困っている状況について、どうしても伝えたい事実がある場合には、補足資料として添付したほうが良いと思います。
(出典:「保育園に入りたい!2017年版」認可保育園の先行、裏技はないが「勘違い」に注意!)

え。「断言します」の意味とは…。8割方…?断言しますと言いながら、結局つけたほうが良いのか、つける意味が無いのか何も言っていない。この本は、本当に悩めるお母さんを助け出そうとしているのか疑問である。結局、この手の真偽は自治体のみぞ知る話なので、誰かが正解をもっているわけではないということだ。ただ、もし自分が自治体で、本当に保育が必要な人に保育所の割当をするような利用調整の担当者であれば、指数が横並びになったら所得の昇順でソートして所得の低い人から割り当てるなど、機械的に決定できる方式を採用するだろう。いちいち手紙を読む時間をとったり、自分なりの新たな基準を設けていては仕事が成り立たなくなってしまう。このあたりも自治体によって所得は一切考慮しないと宣言しているところもあれば、そうでない自治体もあるので自分の足で確認するほかない。もちろん、確認できたとて事実を資料化するだけなので、対策などできるわけもないのだが。

「保活」とは「他の人を蹴落とすこと」なのか?

「保育園に入りたい!2017年版」を買って読んでいて、ずっと胸の奥につかえていたものの正体が少しずつ分かってきた。保育所の数は限られていて、定員が決まっている。そのパイを争うように「家族のため、そして自分のために働き、仕事も子育ても楽しみたい*3」から、他の人を蹴落としてでも自分の子どもを保育所に入れたいという文脈が見え隠れしていて少し怖い。

一番違和感を感じたのは、「保育園に入りたい2017年版」のこの文言である。

例えば点数を上げるためにウソの申請をすることは、入園後もウソをつき続けることになり、保育園や行政との信頼関係を築けなくなるのでお勧めできません。
(出典:「保育園に入りたい2017年版」 認可保育園の先行、裏技はないが「勘違い」に注意!)

いやいや、嘘をついてはいけないのは「信頼関係を築けないから」ではないだろう。利用調整は「本当に保育の必要性が高い人に保育の機会を割り当てるため」の活動なのだから嘘をついて保育を受けるのは完全にクロである。私の中になんとくイメージしている「保活」は、「現実的な事情を考えて保育の必要性が高いにも関わらず、自治体が提示しているルールや情報を見落として、本来、受けられる保育が受けられなくなる事態を避けること」であると思っている。横並びになってしまっては、「家族のため、そして自分のために働き、仕事も子育ても楽しめ*4」なくなってしまうから、なにか他の人のスキを突いて頭一つ抜きに出てやろうという発想が「保活」なのだとしたら由々しき事態である。

保育所を選びすぎて入れない人もいるのか?

「保育園に入りたい!2017年版」の中で驚いたのは、「見学のチェックポイントシート:確認すべきこと」である。保育の様子や、施設の様子、園長・主任などへの質問事項が書かれている。

・このクラスに子どもは何人いますか?
・担任の先生は何人ですか?
・資格を持った保育士さんの人数は?正規雇用ですか?
・クラスリーダーの先生の経験年数はどのくらいですか?
・先生の平均年齢はどのくらいですか?
・連絡帳はありますか?
・外遊びはどうしていますか?
・夏の水遊びはどうしていますか?
・離乳食はどのように進めていますか?
・献立表を見せていただけますか?給食の方針は何かありますか?
・(必要に応じて)母乳対応はしていただけるのですか?アレルギー対応はしていただけますか?
・年間行事はどんなことをされていますか?
・親が参加する行事は平日にもありますか?
・保護者懇談会はありますか?
・(認可外の場合)入園料・保育料はどうなっていますか?保育料以外にかかる費用はありますか?

(出典:「保育園に入りたい!2017年版」見学のチェックポイントシート:確認すべきこと 園長・主任などへの質問事項)

「保活」では、こんなことを見学のときに確認することを勧めているのか?本当なのか?これを確認してどうするつもりなのか。自分の子ども預ける場所のクオリティを心配する気持ちはわからないでもないが、ただでさえ足りないと言っている保育所をこの質問のいかんで、より分けていて保育所入れないと嘆いているのだとしたら共感できない。

もちろん、私はこの本の内容が現実に即していないのだ信じている。実態としては、これだけ社会問題になるほどのことなので、そもそも保育所を選ぶことなんてできない。入れるだけで十分であるという人が多いはずだと思っている。この本はいったい誰に向けて書かれたものなのだろうか。この本への不信感が募る。

保活の真偽はすべては「自治体」に聞け

これ一冊で「保活」のポイントがわかる!というウリだったので買ってみた「保育園に入りたい!2017年版」だったが、How toでお母さんを安心させるような話は書いていない。むしろ、基本的には不安を煽るような内容しかない。それは、「こたえは自治体しかもっていないから」である。これを買って熱心に読む時間があるなら、内閣府が出している公式な情報に耳を傾けたり、自治体の窓口から情報をもらったほうがよっぽど良い。この本の中にお母さんの悩みをまとめたQAの記事もあるが、基本的には「自治体によるので、自治体に確認を」という締めくくりになっているため、この本にこたえは一つもない。

「保活」に関する悩みがあったら、とにかく「自治体に聞く。それ以外に解決の方法はない」というのが「保育園に入りたい!2017年版」から学んだことである。不確かな情報や噂に流されずに自分の目で耳で自治体に従うことが大切である。

*1:子ども・子育て支援新制度 なるほどBOOK(平成28年4月改訂版) - 子ども・子育て支援新制度:政策統括官(共生社会政策担当) - 内閣府

*2:保育園に入りたい!2017年版 第2章 さあ保活のスタートです! より

*3:保育園に入りたい!2017年版

*4:保育園に入りたい!2017年版