じっぱひとからげ

十把一絡げになんでもかんでもつづる。

「冷たい熱帯魚」を改めてもう一度見ると少し違って見えた

そう、なんといってもこの映画はグロい。だから、見終わった人に「どうだった?」と聞いたらきっとほぼ全員が「グロかった」と答えると思う。それゆえに、そればかりが気になってストーリーを追うのを忘れてしまっていたことに気づいた。 

冷たい熱帯魚

冷たい熱帯魚

 

 この映画でゾクゾクするのはやはり、村田に挑発されて社本が覚醒するシーンだろう。再婚した妻タエコとの関係も前妻の娘ミツコとの関係も何一つうまくいっていない人生を送っていた社本が村田の犯罪に手を染めていく中で、村田は社本にこう言い始める。

はい、大変良く出来ました。ご褒美やるよ。おい、アイコ抱くか?アイコはいいからだしてるぞ。

自分の妻アイコを抱くように言う村田の意味がわからず、

なに言ってるんですか。

と動揺する社本。それに対して、村田は続ける。

お前もそろそろ落ち着けよ、お前もどうせ悪人だろ。わかってんだよ。お前みたいな善人面した奴が一番嫌いだよ。おめえはよ、おれにミツコちゃんを預けたのは理由はなんだ?簡単だよ!おめえはよ、てめえの若い妻と思う存分ハメたかったんだろ?な?な?な?でもよ、娘がいるとそれができねえ、大方わかってるぞおめえはよ、な?自宅でできねえかわりにホテルで妻とやってたんだろ?自分の妻とよ。ホテルでしかできねえからフラストレーションが溜まる。そんなの娘が知らねえとでも思ってたのか。バカ、バカ、大バカ、底なしのセックス好き!このオマンコ野郎!おまえみたいなやろうが一番タチが悪いんだよ。自分じゃ何もひとつもできねえ、死ね!なんにも自分じゃ解決できねえ。だから娘がグレるんだよ。お前の娘がグレた理由はたったひとつだ。お前が全部娘に委ねたんだよ。ミツコちゃんがおめえのために家を出て行ったんだよ。わかるか?これはミツコの優しさだ。おめえらのイチャイチャのためだ。お前のために俺のところに来たんだ。おまえがよ、おおっぴらにタエコとよ、ファックできるためによ。タエコはよ、ナイスボーディーだな!感度がいいよ感度が。へへへ、おい、背中のほくろがかわいいな。

社本自身が最もよくわかっている自分自身のダメな部分を明け透けにえぐり出された上に、社本の妻と関係を持っていることほのめかして嬉しそうに話す村田に、この瞬間、社本は人生で初めて怒りの感情を爆発させて村田の胸ぐらをつかみ殴りかかる。社本の全身全霊を込めた拳は怒りの感情こそ込められていたものの、その勢いは弱くその手には痛みだけが残っていた。

おめえはよ、常にそうやって生きてきた。お前のせいで妻はあしを開く、お前のせいで子供がグレる。それなのにお前はなんの対処もしねえ、俺は違うんだ。殺しもするがちゃーんと解決案を考える。だからよ、アイコもすっきりするし、俺もすっきりする。お前はよ、今までのお前の人生の中で、今まで一回でも、自分の力ですっきりさせたことがあるか?

村田が社本を殴りつける。

立てこのやろう!てめえみたいなやつは、すぐ怪我するんだよ。なんでかわかるか?てめえはよ!自分の足でたったことがねえ、腰抜けだ!俺を見てみろ。警察もヤクザも敵に回してもここまで自分の力で生きてきたんだ。なさけねえやろうだ。おい、立て、立って俺を殺せ!それともデカにチクるか。社本、俺を親父だと思え思ってなぐってこい。いいか、気合入れて殴れよ。

再び社本は立ち上がり村田に殴りかかる。

お、いいぞ、じゃんじゃん力がはいってきた、もっと殴れ!ほら!

 声にもならないうめき声で社本は泣き崩れる。

なんで泣いてんだよ!この野郎、変な泣きぐせつけやがって。社本!なんで泣くんだよ!殴れ、ほら、殴れ!思いっきり!

力が抜けて立ち上がることもままならない社本の手を取って、村田は自分の頬に拳をぶぶつけるが、ペチ、ペチと虚しい音が響く。

おい、社本、お前はよ、俺の共犯者か?

はい。

もっと大きな声で!

はい。

さあ、立て!今すぐアイコを抱け!

できません!

なんだと!この野郎、お前は共犯者だろ?ほらやれ!

アイコが社本のズボンをおろしはじめる。

あんた、立ってきた。

アイコ、じぶんから挿しにいけ!

次第にアイコに腰を打ちつけ始める社本は、その行為の最中に近くにおいてあったペンでアイコの首筋を一突きし、さらに村田の全身をめった刺しにする。当然、ペンでいくら突き刺そうとも致命傷にはいたらないが、これが社本の怒りが形になった初めての出来事だった。

この日から社本は覚醒する。アイコに村田の遺体を処分させ、娘のミツコ、妻のタエコに言うことをきかせる。言うことに従わなければ暴力もいとわない。

社本は自分の実現したかった世界を押し殺して、言いたいことも言えずにこれまでの人生を送ってきた。ところが、何の因果か村田の犯罪に加担することをきっかけとして、たとえ法に触れようとも自分自身の思う世界を形にする村田の生き方に触発され覚醒した。

人は誰しも多かれ少なかれ心の奥底に「実現したい世界」をもっていながら、それを押し殺して生きているところがある。その部分を社本に投影して表現されていることに気づいた。