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じっぱひとからげ

十把一絡げになんでもかんでもつづる。

「喜びも悲しみも幾年月」を見た。

作品の概要については、Wikipediaに任せて感想だけ。

 

 

この作品の主人公は、灯台守(とうだいもり)という灯台の維持管理をする四郎ではなく、灯台守の嫁として嫁いだきよ子である。たった一度のお見合いで灯台守に嫁ぐことを決めたきよ子は、灯台守という仕事がなんたるかもわからないままに嫁入りした。

「ねえ、きよ子。灯台なんてものはこんな都会に近い便利な灯台はいくつもありゃしない。人里はなれた泣きたくなるような場所も多いんだ」

学校の都合で子どもとの別居生活をせざるを得ない状況もある。転勤のたびに灯台を転々とする生活を余儀なくされる。灯台守に嫁ぐということはそういうことなのだ。

「私たちの行く先にはどんな苦労が待っているのかしら」

はじめは不安に感じていた灯台守の嫁としての生活ではあったものの、きよ子は灯台守の家であることに対しての不満は消えて行った。ただ、子どもにだけは苦労をさせたくないと感じて不憫に思っていた。きよ子はその思いだけだった。二人の子どもが東京の学校に行きたいといえば、それを止めることはしない。自分が不便に感じていたことを子どもに押し付けることはできないと思っていた。

あるとき、東京の大学を目指していた息子の光太郎が事故に巻き込まれ刺されてしまう。病院について医者からの説明を受けたきよ子は、すぐに四郎に電話した。

「もしもし、あ、おまえか、どうした」
「もうね、難しいんですって。あなた、すぐ来てくださいね…もしもし、あなたすぐきてくださいね…もしもし…もしもし…」
「だめなもんならいったってしようがないよ。もう交代時間だ」
「お父さん…お父さん…」
「勤務を済ませたら行くよ。光太郎にそういっておいてくれ。わしも頑張るから、お前も頑張れと」

灯台守としての仕事にかける思いと家族の安否を気遣う気持ちが交錯する。涙をぐっとこらえて受話器を置いた。

電話の後、きよ子は病室で光太郎のそばに腰掛けた。

「光太郎」
「お母さん」
「どうしたのこんなことになって」
「すいません、お母さん」
「お前大学に入れなかったから、やけになっちゃったのね。ばかねえ、大学なんてはいれなくたっていいじゃない」
「僕、お父さんにもすまなくてしようがなかった」
「そんなこと。他の人たちとは違うんだもの。小学校の頃から学校変わってばっかりいて、一つ所でじっくり勉強したことなんかないんだもの。入れなくたってしかたないよ。お前が悪いんじゃないよ」
「僕ね、東京へ行くのを諦めるよ。僕、お父さんのように灯台員になることになることにする。舞鶴の養成所へいくよ」
「そう、保安学校へ上がってくれるの。お父さん喜ぶわよ。お父さんも年をとってきたからね。おまえが跡継ぎになってくれれば、どんなに気強いか知れないわ。
「大学なんて出なくたってお父さんの方がよっぽどえらいよ」
「そうよ頭で生きる人が一番えらいわけじゃないわ。お父さんは体と心で生きてきたんだものね」

「お母さんだってそうだ」

「そうよ、お父さんといっしょだもの」
「眠たいの。眠くなっちゃったの」
「目の中で灯台の光がぐるぐるまわっているよ。お父さんはえらいなあ」

そう言い残して光太郎は息を引き取った。

娘の雪野は大学を出て結婚し、貿易会社に勤める夫の仕事の都合でエジプトはカイロに向かう。日本を離れる船の中で雪野は、御前崎の灯台に向かってこうつぶやく。

「お父さん、お母さん、ありがとう」

 

灯台守として生きる夫婦の子どもたちへの強い思いが良く現れている。そして、その思いを子どもたちがしっかりと受け止めていることを知り、四郎ときよ子はほっとしたことだろう。

どうして灯台守の家庭になんか生まれたのだろう、なぜこんなにも不自由をしなければならないのだろう、そんな風に子どもたちに思って欲しくない。ずっとそう思ってきた四郎ときよ子にとって子どもたちの感謝の言葉は自分たちが生きた証といっても良いのかも知れない。